やっぱり、どう考えても、蒼希彼方と同じユニットってのは、納得がいかねぇー!!しかも、リーダーが土門の奴だと・・・?!たしかに、俺たちの新ユニット名、SPLEENはなかなか良いとは思うが・・・・・・。それでも、田中は最初、俺がリーダーだって言ってたじゃねぇか!!
・・・よし。こうなったら、もう1回、田中に直訴してやる。無駄かも知れないが、少なくともリーダーは俺が相応しいと説得してみせる。
そう考えて、俺はSPLEENが集まっていた部屋を1人抜け出した。土門と碇、そして蒼希彼方が仲良さげに話していて、そんな俺の様子にはちっとも気付いていなかった。・・・どうせ、今から俺がやろうとしていることを知れば、土門も碇も俺を止めるだろう。そんなことなら、端から気付かれない方が好都合だ。
・・・・・・だからと言って、そんなに話すこともないとは思うが。本当に俺の方を見向きもしやがらなかったからな、アイツら。まるで、俺が居ないかのような・・・・・・。・・・・・・まぁ、最初から土門と碇は、蒼希彼方が入ることに関して割と肯定的だったから、それも当然なのかも知れない。
とにかく、と気を取り直して田中を探す。
今日はこのスクールに来たが、目的は田中が誰かと話があるとかで、俺たちはさっきの部屋で待機させられていた。だから、田中がどこに居るかはわからないが、この敷地内に居ることは確かだ。スクール内にも拘らず、全くゲーラの無い奴が見つかれば、大方それが田中だろう。
とは言え、ゲーラの無い奴を見つけるのは難しい。何せ、ゲーラが無いわけだからな。
そう思った矢先、少し遠くでゲーラの欠片も無い奴が見えた。案外、早かったなと思って近付くが、近付けば近付くほどに、それが田中ではないとわかってきた。
初めに。田中にしては、やたらと辺りを見渡していた。まるで、道に迷っているかのように。さすがに、マネージャーが迷うわけはないだろう。
しかも、よく見れば、田中より背も低く、髪も長い。そして、それが女だとわかったとき、ソイツも俺に気が付き、ほんの少し目を輝かせて俺に駆け寄って来た。
「あっ!あの・・・!」
「何だよ。」
「SPLEENの流智さん、ですよね・・・??」
「・・・そうだけど?」
「良かったー・・・!私、実はあまりアイドルに詳しくないんですけど・・・。こんな私でも知ってる方に出会えて、本当に良かったです!」
・・・・・・。・・・そりゃ、そうだろう。何せ、俺は雑誌のインタビューに答えたことだってあるし、蒼希彼方とだって、ごきゃ・・・・・・ぎょか・・・・・・、ご、か、く。そう、互角なんだからな!
「でも、写真で見るときと、かなり印象が違いますね・・・。」
「当たり前だ。写真やファンの前ではエンジェルサイド、今はルシフェルサイドだからな。」
「エンジェルサイド?ルシフェルサイド??・・・ふふ、面白い方ですね。でも、私、SPLEENの中では、流智さんのファンですよ?」
「・・・お前みたいなのは、本当のファンじゃないだろ。」
「たしかに熱烈なファンではないですけど・・・。でも、本当に流智さんのファンなんです。なので、こうして出会えて、さらにはお話させていただけて、とても光栄です!」
そう言って、女はペコリとお辞儀した。
・・・・・・このスクールに居るってことは、同業者なんだろうが。どうせ女と男じゃ、ファンの層も大きく違うだろうし、コイツが俺のライバルになり得る可能性は低い。もちろん、ゲーラにも大きく差があるからな。
だが、ここまでゲーラが無いということは・・・、まだ入ったばかりの新人なんだろう。・・・この世界のこと、少しは教えてやってもいいか。まぁ、蒼希彼方よりも俺を選んだということは、素質があるだろうし。
そんなことを考えていると、早速女が言い出しにくそうにしながらも、俺に尋ねた。
「ところで。1つ、お頼みしたいことがありまして・・・。大変、申し訳ないとは思うのですが・・・・・・。」
「何だ?」
「実は私、道に迷ってしまって・・・。できれば、案内をしていただけないでしょうか・・・??」
そういえば、コイツはさっき、辺りを見回していた。やはり、迷っていたのか。
ここに来たのは、初めてなのかも知れない。・・・仕方ない。この俺が教えてやろう。
「俺も暇じゃないんだけどな・・・。けど、今は人を探しているところだから、そのついでに案内してやるよ。」
「本当ですか?!うわぁ〜・・・!良かったぁ〜・・・!!本当に、ありがとうございます!!」
「ここに来るのは初めてなのか?」
「え、えぇ・・・。そうですね・・・。」
「それなら迷うのも当然かも知れないが、早く覚えておけよ?」
「・・・・・・。あの・・・言いにくいんですけど・・・ウソは良くないと思うんで、言いますね?」
「?」
「私・・・・・・一般人なんですよね・・・。」
「なっ・・・!!何っ?!!で、でも、ここは関係者以外立ち入り禁止で・・・!!」
「やっぱり、そうですよね・・・。おかしいな、とは思いつつも、はぐれてしまった友達を探すのに必死で・・・・・・。」
・・・マジかよ、一般人だと?・・・・・・ってことは、本当にただのファンじゃねぇか!!!
うっかりルシフェルサイドを見せちまったが・・・・・・今更フォローできるわけがねぇだろ・・・。
「この建物自体は出入り自由みたいだったので、アイドル好きの友達と見学に来たんですけど・・・。友達が熱烈な蒼希さんのファンでして。『今、彼方くんらしき姿が見えた・・・!!』って言って、どっか行っちゃったんですよね・・・・・・。それで、追いかけたんですけど、見失っちゃって。・・・あ〜あ、こんなことなら、最初からその場で待っておけば良かった・・・・・・。」
隣で女が悔やんでいるが、本当に悔やむべきは俺の方だ・・・。
コイツの失敗がバレたところで、大きな被害は無い。今この場で、少し騒ぎになるぐらいだろう。だが、俺は違う。もし、これがバレたとなれば、俺の人生が終わってしまう。もう、この世界に居られなくなってしまう・・・。
「とにかく、本当に他意は無いんです・・・!なので、ここは秘密にしてもらえませんか??・・・・・・って、これじゃ、お願いを2つしちゃうことになっちゃいますね・・・。」
「・・・・・・わかった。黙っといてやる。だが、その代わり、俺のことも黙っておけよ?」
「流智さんのことを・・・?ここで会った、って話さない方がいいんですか??」
「と言うよりも、ルシフェルサイドのことだ。」
「・・・・・・あぁ!そういえば、さっき、ファンの前ではエンジェルサイド、って話されてましたもんね!だから、黙っておいた方がいいってことですか?」
「ああ。」
「わかりました。お互い、秘密にしておきましょう!・・・それにしても。本当に、ファンの前で見せたことがないんですか?その・・・ルシフェルサイド。」
「当たり前だ。お前がこんな所に居るから、俺も油断しちまったんじゃねぇか。普段なら、絶対にこんなミスしねぇんだよ。」
「ハハ、すみません・・・。でも、大丈夫です!ちゃんと黙ってますから。」
女は楽しそうに笑いながら、あっさりと俺の提案を快諾した。
だが、当然、秘密のでかさが違う。俺がコイツの秘密を暴露したところで、コイツにはほとんど影響は無いのに対し、コイツは俺の一生を変えることができる。それに、コイツの嘘は、今言わなければ効果は無い。俺が後から言ったとしても、もう遅いだろう。ただ、コイツは今後、いつでも話すことができる。たとえ証拠は無くても、俺は少しでも疑われたら終わりなんだ。
こんな、明らかに不公平な約束、コイツが守る意味は無いに等しい。
そう考えていた俺と同じように、女も同じことを思ったらしい。だが、その結論は俺とは違っていた。
「でも、本当にいいんですか?私はアイドルである流智さんの秘密、と言うかプライベートを知れて、ラッキーってわけなんですけど。流智さんからすれば、一般人の、しかもどうでもいい秘密を知ったところで、何の役にも立たないじゃないですか。」
・・・なるほど。そういう考えもあるのか、と少し納得してしまう。
ただ、それはアイドルなんかに興味の無い奴からすれば、どうでもいいことになる。
「お前こそ、アイドルに詳しくないって言ってたってことは、そんなことには興味ないんじゃねぇのか?」
「興味なくはないですよ。だって、私は流智さんのファンだ、とも言ったじゃないですか。」
「・・・・・・でも、もう違うだろ?」
「どうしてですか??」
「俺のルシフェルサイドを見たんだ・・・、ファンで居られるわけがない。」
「そんなことないですよ。」
「・・・・・・本気で言ってるのか?」
「当たり前です。だから、ルシフェルサイドのこと、秘密にする必要も無いと思うんですけど・・・・・・。でも、そうすると、私の失敗を秘密にするって約束も無かったことになっちゃいますねっ!それは困るので、ぜひお互い秘密にしましょう!!お願いしますっ!」
後悔するべき、そして焦るべきは俺であるはずなのに。その全てを、隣の女がやっていた。
「・・・変わった奴だな。」
「そうですか?・・・でも、もともとアイドル好きってわけじゃないんで、私だけがそうなのかも知れませんね。アイドル好きの子たちからすれば、やっぱりショックなんでしょうか?」
「だろうな。」
「う〜ん・・・。私としては、どっちも素敵だと思いますけどねー。」
「・・・ま、まぁな!そりゃ、本来はそうあるべきだ。」
「ですよね!むしろ、ルシフェルサイドの方が自然体で、魅力的だとも思いますし。」
「・・・・・・それは、お前ぐらいだと思うぞ。」
「そうなんですかね〜・・・。少なくとも。私はルシフェルサイドの流智さんも見れて、もっと好きになりました。」
「!」
「あ、ー!!」
かなり出入り口に近付いていたらしく、少し遠くの方から、女の友達らしき人物が駆け寄ってきた。
俺は自然とエンジェルサイドを使い、なぜか動揺しそうになった自分をも抑え込んだ。
「お友達?」
「・・・はい、そうみたいですね。ここまで、案内していただき、本当にありがとうございました。」
「そんなこと・・・。少しでも君の役に立てて良かったよ。」
「、どこ行って・・・・・・って、流智くん?!!あ、いえ・・・流智さん、ですか??!」
「そう、たまたま流智さんに出会って・・・ここまで道案内してくださったの。」
「えぇー、羨ましい!!」
「ふふ。・・・でも、君は彼方のファンなんだって?彼女に聞いたよ。」
「あ、いえ、その・・・・・・!」
「気にしないで。彼方にもちゃんと伝えておくね?これからも、SPLEENをよろしく。」
「は、はい・・・!」
「私も応援してます!流智さん、本当にありがとうございました。」
「こっちこそ、ありがとう。それじゃ、気を付けて帰るんだよ?」
「「は〜い!」」
出入り口の方から駆け寄ってきた奴と、ソイツにと呼ばれた女を見送り、俺も道を引き返して部屋に戻った。
部屋に入ると、すっかり探すのを忘れていた田中の姿があった。
「お。流智、戻ったか。どこ行ってたんだ?」
「別に・・・。」
「そうか・・・まぁ、どこに行こうが、お前の自由だからな。それより、お前ら全員に良い話がある。流智も座って聞いてくれ。」
俺が碇の横の椅子を引き、そこに腰掛けると、田中から、今度俺たちのデビューを記念して握手会を行うという話を聞かされた。どうやら、今日はそのことで、ここに居る誰かと話すために訪れたようだった。
・・・・・・握手会、か。
「JKの手も握り放題ってことか・・・!」
隣の碇がそんなことを呟いたのが聞こえたが、俺は一切無視をした。と言うか、俺には碇にツッコミを入れる資格は無いと思った。握手会と聞いて、さっきのと呼ばれていた奴にまた会えるだろうか、と考えてしまった俺が居たから・・・・・・。
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初流智夢です!今後も、遅いスピードなりに作品を増やしていきたいと思います(笑)。
さて、読んでいてわかった方もいらっしゃると思いますが、今回の話は比較的昔に書いたものです。SPLEENのグループ名が決まった直後ぐらい、ですね。なので、まだ流智さんがリーダーの件で文句を言っています(笑)。でも、無事、この後のお話で彼はリーダーになっていましたからね!
あと、ネタ自体はもっと前に浮かんでいたんですよね〜。なので、ルシフェルサイド&エンジェルサイドを全面的に・・・(笑)。後半では、あまりこの話題は出てきませんでしたもんね(汗)。私は、このネーミングセンスが大好きなのですが(笑)。
とりあえず、可哀想な流智さんが大好きなので(←)、今後も扱いが良くないかも知れませんが、続編もチェックしていただけると嬉しいです!
('10/04/01)